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神々と出会う中世の都 カトマンドゥ

エクスナレッジ 1999年発行 2012年新装版

宮脇檀・中山繁信・中村好文・木下庸子・杉浦伝宗・曽根陽子と共著

●目次
・序 中世を味わう快楽 宮脇檀
・魅惑のネパールへ カトマンドウ盆地の風土と歴史と人々 杉浦伝宗
・カトマンドウ都市の都市性 パドガオンの二つの広場をテーマに 宮脇檀
・縁側のある都市空間 ダルマシャーラという公共休憩所 中山繁信
・街の中の王宮マッラ王朝時代のネワールの遺産 諸角 敬
・偏在する聖なる建築 無数の神々と人々が交差する寺院と僧院 木下庸子
・重層する住宅 カトマンドウ盆地の伝統的な民家と暮らし 中村好文
・ネパール建築の構造とディテール 伝統建築を支えるインターロッキング・システム 諸角敬
・現代住宅と暮らし 未完の住居と生活スタイル 曽根陽子

日本大学生産工学部に住宅のことを専門に教えるコースがあります.そこで教える建築家講師陣、皆でネパールカトマンドウに旅行に行きそのすばらしい街並みに感動しました. そんなカトマンドウの街を一人でも多くの人に知ってもらいたいと思い、専門家にも一般旅行者にも満足してもらえるような、今までにないちょっと専門的なガイドブックとして書き上げたのがこの本です.買い物情報、レストランガイドはありませんが、街の成り立ち、歴史、民族、建物の特徴などネパールをより深く知るための本にしたつもりです.旅行の計画のない方も写真が多く楽しい本ですので、是非目を通してみてください.

担当章「街の中の王宮」書き出し部分
限りなくハウスに近いパレスヨーロッパ、アジア、アフリカ.いくつかの国へ旅をしたが、まだまだ色々な国を見て歩きたい.そしてどの国に行ってもやはり興味がわき、血が騒ぐのは古くからある街並みやちょっとした路地の空間だったりする.僕らの生活からかけ離れた宮殿など、見せ物としてのおもしろさはあるが、なぜか心の底からどきどきするような感動に出会ったことがない.ここ、ネパールに来るまではどこの国の権力者もその権力と富を誇示するようにパレス=宮殿は立派で豪華であると思いこんでいた.ヨーロッパを始めどの国の宮殿を見ても、その圧倒的なたたずまいには、ため息がでてしまう.私など住宅の設計が多いせいか、宮殿は立派すぎて他人ごとのように見えてしまい、興味も薄れがちになってしまう.ところがこのカトマンズ盆地の王宮はいままでと何か違う.決して貧弱でもないし芸術的な価値が高いにも関わらず、僕らを圧倒するような威圧感はない. 街で見る住宅とスケールが非常に近い.パレスとハウスの違いがそれほど明確ではないのだ.もともと王宮建築といっても伝統的なネワール住居を拡大して細部に装飾を施したりしながら贅沢に仕上げたものが多いためだろう.カトマンズ盆地に点在する小さな町で、元王宮であったといわれている建物など、住宅と見分けのつかないようなものも少なくない.記録にも残っていないし、人々の言い伝えだけであるのでよけいに王宮とは信じがたくなってしまう.また王宮が普通の住宅とあまり変わらないように見えてしまうのはその周りの外構の扱いにもある.日本の皇居を思い浮かべてみると分かりやすいのだが、一般に王宮というと庭園と広いアプローチを持ち、一般市民の生活の場から遠く離れ権力を誇示した建物である.ところがネパールではそれらを持つこともなく住宅と同じように街の中に普通に道や広場に面して建てられている.また、その建物の配置にしても長いアプローチを取ったり何重にも囲われた塀や建物があるわけでなく、殆どの建物が道や広場に直接その出入口を持っている.カトマンズの王宮の入口などは、ネパールを代表する王宮の入口とは思えないほど、建物の入り隅のこじんまりとしたところに配置されており、入口に門番らしき人はいるがそのすぐ横ではゴム草履を履いた市民がここの象徴ハヌマン像にお祈りをしている.日本で言うと皇居、いや現在は王宮は少し離れた別の所にあり国王はそこにお住まいだそうなので、京都御所の入口でこの様子だ.増築を重ねながら配置されていった結果、偶然隅に追いやられたのかもしれないが、それをそのままにしておくところが権力を誇示しないネパール王宮の親しみやすさでもある.どの王宮も建物自体は中庭形式で中に開く閉鎖的な形式を取っている.しかしその中庭と道路、広場は扉一枚で隔てられているだけなため、極端な話、王の沐浴する池のある中庭の扉一枚向こうが広場や道になっているケースもある.パタンのスンダリ・チョクの内部は、一般の観光客には公開していないため見られないが、一般の人が行き交う広場に面した扉の隙間から、チョクの中の様子を十分にうかがうことができる.広場との歴史王宮の一番核になるプライベートな空間が木製の扉一枚でしか隔てられていないのだ.こんなに近くに王様がいる宮殿なんか他の国では見たことがない.パタンに足を運んだときには、チラッと覗い見ると良い.また、パタンの王宮の一番北側の奥にあるマニ・ケシャブ・ナラヤン・チョクと呼ばれる建物は、現在博物館になっており観光客も入ることができる.王宮と道路の関係が内側から見ることができて興味深いのだが、格子を組まれた窓のすぐ下を土産物を売る人や買い物帰りの人が行き来しており、王室と一般庶民の距離を感じさせないのを肌で感じ取ることができ楽しい.当時の王室の人々は、窓のすぐ脇に設けられたカウチに腰掛けながら町行く人々を眺めていたと聞く.さらにその出窓は地上の民衆を眺めやすくするために斜めに取り付けられている.私も座って広場をしばらく眺めていたが、ぼんやりと楽しい時間を過ごすことができるものだ.当時の王様になった気分を味わってみた.